東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)161号 判決
事実及び理由
一 請求原因(一)ないし(三)の事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要旨)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決に、原告主張の点等において、これを取り消すべき理由があるかどうかにつき検討する。
(一) 原告主張の(四)の1(引用例の構成の認定の誤り)について。
原告は、引用例には「カメラ本体が腕状物体に対して容易に動揺しないように固定される」という構成は記載されていないというが、甲第四号証(引用例)第五七頁下欄終から第一〇ないし第七行によれば、引用例には「カメラの底部には四本のピンとロツクピンがあつて三脚取付ネジや吊金具を持つた板や腕に取付けて撮影する皮バンドを取付けることができる。」と記載されていることが認められ、右記載によれば、カメラの底部には四本のピンとロツクピンが設けられており、それによつて、カメラを三脚の台板へ取り付けるための三脚取付ネジやカメラを吊り下げるための吊金具を持つた板をカメラの底部に取り付けることや、カメラを腕に取り付けて撮影する皮バンドをカメラの底部に取り付けることができるものと解される。
もつとも、本件審決が摘示した「腕に取付けて撮影する皮バンドを(小型カメラ本体に―本判決註、この部分は引用例中の記載にはない。)取付けることができる」との記載だけでは、必ずしもその文意が明瞭であるとはいえないが、同記載は、前記「カメラの底部には……ができる。」との文中の末尾にあたり、それが、前段の「カメラの底部には四本のピンとロツクピンがあつて」との記載を受けることは文脈上明白であり、これによれば、「カメラの底部には四本のピンとロツクピンがあつて、カメラを腕に取り付けて撮影するための皮バンドをカメラの底部に取り付けることができるもの」と解され、または、少なくとも右趣旨は引用例に十分示唆されているということができる。そして、右にいう「撮影」の語句については、特殊な目的を意図するもの(例えばブレ写真撮影)であれば格別、一般的にはブレのない写真を得ようとする意味のものということができるし、ブレのない写真を得るためにはカメラを何らかの手段でできるだけしつかり固定する必要があることは明らかであるから、引用例のカメラが腕バンドにより腕にしつかりと取り付けられるものであることが示されているということができ、したがつて、引用例には、腕バンドによりカメラを容易に動揺させないように固定する構成について記載されているか、または、少なくともその趣旨は十分示唆されているものということができる。
そうすると、本件審決が引用例の構成の認定を誤つたとする原告の主張は理由がないといわなければならない。
(二) 原告主張の(四)の2及び3(本願考案要旨の解釈の誤り及び進歩性判断の誤り)について。
原告は、本願考案は、超小型のスプリングカメラを腕バンドにより腕にはめるようにした点に特徴があり、この点は当業者といえども引用例からきわめて容易に想到できるものではない旨の主張をするが、成立に争いのない甲第二、三号証(本願考案の明細書及び補正書)の実用新案登録請求の範囲には、本願考案のカメラが「小型カメラ」であり「スプリングカメラ」である旨の記載があるだけで、それが超小型スプリングカメラである旨の記載はなく、考案の詳細な説明における目的・効果からみても、本願考案のカメラが超小型スプリングカメラのみに限定されるものと解すべき理由はなく、また、仮に本願考案を右のように解しうるとしても、ふたの開閉によつて小嵩にできるようにしたカメラとしてスプリングカメラが本願考案の出願前周知であつたことは原告の自認するところであり、しかも、引用例に「テ シナ」カメラの解決課題と効果についての記載がないとしても、同カメラが小型カメラであることは原告の自認するところであるばかりでなく、引用例には、原告が摘示する(原告主張の(四)の1中)「普通は手の掌に水平に乗せた位置で撮影するが、アルバタフアインダーで目高撮影もできる。」との記載のほかに、前記「カメラの底部には四本のピンとロツクピンがあつて……腕に取付けて撮影する皮バンドを取付けることができる」との記載があり、それが、小型カメラを腕に取り付けて撮影するために、カメラの底部に腕バンドを取り付けたものと解しうること前示のとおりであるから、小型カメラを腕バンドにより腕に取り付けて撮影できるようにした点において作用効果上格別差異のない構造上の微差が存するにすぎないから、この場合においても、本願考案は、当業者であれば引用例記載のものからきわめて容易に考案できたものとみるのが相当であり、この点に関する本件審決の解釈・判断に誤りはない。
三 以上のとおり、本件審決には、原告主張の点において認定判断の誤りはなく、その他にも、これを取り消すべき違法の点は見当らないから、その取消を求める原告の請求は失当といわなければならない。
四 よつて、原告の請求を棄却する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
小型カメラにおいて(1)撮影を行なうための主要部分すなわち本体1はスプリングカメラであること、(2)前記本体1またはこのふた3に腕バンド4を設けること、(3)腕状物体にはめて前記腕バンド4を締め前記ふた3を開いて撮影態勢とした状態において前記本体1がその腕状物体に対し容易に動揺しないように固定されること、を特徴とするカメラ。